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カリンのつぶやき 微小貝の島唄
2008/03/10 Monday 09:13:01 JST
霜がおりだしたある冬の朝。
庭のカリンの木の下に、黄色く実ったカリンの木がごろごろっと転がっていた。
あぶらっぽい実をつかんで、約束されていたかの様に鼻に近づけてみる。
生々しいカリンの香り。柑橘系のようにパーッと広がる香り方ではない。
おおげさじゃないというより、むしろ遠慮がちな香りが漂っていた。
さて、この実をどうしよう?
種取り用の実を残して、風呂に入れてみることにした。

もうずぐ2歳に成る息子と、カリンが待つ風呂に入る。
プカプカと呑気に浮きながら、相変わら静かな香りを漂わせている。
そのとき、僕と息子は同時に気がついた。
カリンがプチプチと微かな音を出して呟いているのだ。
初めて聞くみょうちくりんなカリンことば。

カリンを手にとって息子の耳に近づけてやる。
ジジ。ジ。ジージジ。
僕も別の実を耳に持っていく。
プチ。チチチチ。プップップッチ。チッチ。
僕たちは思わぬカリンの合唱にドット笑った。
別次元からやってきた宇宙人のようなカリン達の鼻唄に、
深い海の底に沈んでいた記憶の箱が開いた....。

..あれは、奄美大島の南にあるカケロマ島での最初の夜だった。
カケロマ島にたどり着いてすぐに意気投合した里さんが建てた貝の博物館が、
その夜のぼくの宿だった。
寝袋を広げて転がりながらも、神経が昂ぶり寝付けずにいた。
女たちが歌う島唄が微かに聴こえていた。。
里さんが昼間、聞いていたネーネーズのCDがかかっているのだろう。
はじめはそう思っていた。
音楽を止めようと思って、ステレオ装置を確認しに行った。
あれ?おかしいな??電源はOFFに成っているぞ。

どこからともなく聞こえてくる、漂う空気に溶け込むような島唄に、じっと耳を傾けてみる。
同じフレーズを何度も何度もリフレインしながら、
気がつくと今さっきのメロディーと違うものに変化していく。
これは、人間の唄とはちがう。
もしかして?
ぼくは、あたりを見回してみた。
貝。貝。貝。右を向いても左を見ても貝が置いてあった。
当たり前だ。ここは貝の博物館だ。
カケロマは日本でも有数の微小貝の産地、貝の多様性のセンターなのだ。

貝が唄っている。
それしか、考えられなかった。
そのとき、はっと気がついた。
唄うという字は、口に貝と書くではないか!
戦慄した。
貝が島唄を唄うことをぼくは理解した。
何か祝福のようなものとして、僕は受けとめていた。

次の朝、里さんに自分の体験を話した。
里さんは満足げに笑みを湛えながら、
「そういうことは、あるでしょうねー」と言った。ような気がする。(記憶が怪しい)
その後、ぼくはカケロマ島に移住することになるのだが、
その話は、またの機会にゆずろう。


ところで、僕の息子は、何でも楽器だと思っているふしがある。
というより、そのように育てられたふしがある。(親の顔がみたい?)
ストーブの柵、映写用のスクリーン、思わぬものを楽器として楽しんでいる。
石油ストーブに火をつけると、だんだんと温まっていきながら、カン。カン。と音をたてる。
その音のピッチは段々と早まっていく。
まるで、ぺヨーテソングのウオータードラムのワンビートの様に。
息子はその音に合わせて、なんと、踊る。

世界は不思議な音に満ちている。
いや、音が世界を創造している。
音は生きている。
空間も生きている。
僕たちは、その実相をよく知らない。
僕たちは、ただ世界に耳を澄ます。
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